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最高裁判所第三小法廷 昭和38年(オ)1003号 判決 1965年11月02日

上告人

株式会社斎藤組破産管財人

尾埜善司

被上告人

株式会社大和銀行

右代表者代表取締役

寺尾威夫

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一点について。

本件記録によれば、原審口頭弁論において、被上告銀行が、本件手形買戻請求権を行使した旨の主張をしていること明らかである(記録二七六丁、二七九丁参照)。他方上告人は、原審第一回口頭弁論期日に、第一審判決事実摘示のとおり第一審口頭弁論の結果を陳述しており(記録二五八丁参照)、第一審判決事実摘示には、上告人において、被上告銀行は、前記五月(四月の誤記であること明白である)八日に、破産者の支払停止を理由として、破産者に対して本件手形の買戻請求権を行使すると共に破産者に対する右手形買戻代金債権金一五万円と本件定期預金債権とを相殺したものである、と主張した旨の記載がある。よつて、原判決が、所論の事実は当事者間に争がないと判示したのは当然であつて、論旨は採用することができない。

同第二、第八点について。

民法九二条の趣旨は、取引当事者間に、その取引に関する慣習が存する場合には、反対の意思表示をしないかぎり、その慣習が当事者間の法律行為の内容となるということである。そして、原判決挙示の証拠に照らせば、原判決が、銀行業者において、自己が割引いた手形が不渡になつた場合もしくは割引依頼者の信用が悪化した場合に該手形の買戻請求をすることができ、割引依頼者はこれに応じなければならない慣習が存すると認定したことは是認しえられる。されば、本件手形割引契約の内容として買戻請求の約定が存し、該契約にもとづき被上告銀行が買戻請求権を行使した旨の原判決の判断は正当であつて、これに所論の違法は認められない。論旨は採用することができない。

同第三点について。

原判決を通読すれば、原審は、手形買戻請求権は、割引手形の不渡によつて当然買戻の効果を発生し、もしくは割引依頼人の信用悪化のさいに割引銀行が割引依頼人に対し買戻の意思表示をすることによつて買戻の効果を発生し、その結果として、割引依頼人は手形金額を銀行に支払う義務が発生し、銀行はこれと引換えに割引手形を返還する義務が生じるものと解していること明らかであつて、所論のように、手形支払人の不履行によつてのみ発生するものと解しているのではない。論旨は、原判決の誤解に立脚するのであつて、排斥を免れない。

同第四点について。

原判決の「停止条件付債権」という用語は適当でないが、買戻請求権についての原判決の見解は、第三点に対する判断において述べたとおりであつて、これに民法五五六条一項の解釈を誤つた違法は認められない。論旨は採用することができない。

同第五点について。

被上告銀行の上告人に対する手形金支払請求権は、被上告銀行の買戻請求権の行使によつて初めて発生する債権ではあるが、その買戻請求権は、株式会社斎藤組が支払停止をする前である昭和三二年二月二二日の本件手形割引契約を原因として発生したものであるということはいうまでもないから、該買戻請求権行使の結果発生した手形金支払請求権をもつて、破産法一〇四条三号但書にいう「支払ノ停止若ハ破産ノ申立アリタルコトヲ知リタル時ヨリ前ニ生シタル原因ニ基」づき取得したものと解した原判決の法律上の判断は、正当であつて、同条の解釈を誤つた違法は認められない。論旨の見解は採用することができない。

同第六点について。

被上告銀行は、本件自働債権が一五万円であると主張していること弁論の全趣旨に照らし明らかであり、上告人は、被上告銀行から手形買戻債権一五万円と本件定期預金債権とを相殺する旨の意思表示のあつた事実を認めていること、第一点に対する判断で述べたとおりである。されば、弁論主義違反であるとの論旨は、理由なく、採用するに値しない。

同第七点について。

上告人が第一審において所論の主張をしたことは記録上認められるけれども、割引銀行は振出人に請求しなければならない義務を有するものではなく、買戻請求権を行使するかどうかは割引銀行の自由裁量に委されているのであるから、所論の主張の理由のないこというまでもなく、原判決において該主義につき特に判示するところがなくても、判断違脱の違法があるとはいえない。論旨は排斥を免れない。

同第九点について。

論旨は、いずれも、判決の結論に影響のない事項を云為するにすぎないから、採用するに値しない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(柏原語六 五鬼上堅磐 横田正俊 田中二郎)

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